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~想い出の選手たち~#8武内晋一

期待を裏切ったのではない。
期待に応えようとしたために、自らの野球人生が狂ったような選手だった。

高校生としては抜けた打力、黄金期の早稲田の主軸、そしてドラフト1位…。
ファンの期待が高まるのは当然だった。
ただ球団とファンが求めたものと、もともと持っていた彼の打撃スタイルにはズレがあった。

本来の彼の打撃は、ラインドライブ。
センターを中心に広角へ打ち返すものだった。
しかしチームが求めたのは長距離砲。
背番号8はその期待の象徴だった。

それでも自分のスタイルを貫けば良かったのかもしれない。
ただ彼はスタイルより期待に応えようとした。
ライバルが外国人選手となることの多いファーストというポジションがそうさせたのか?
いや、彼の性格なのだろう。

なんとか打球を飛ばすスタイルを身につけようと、胸板は厚くなっていき、スイングは毎年のように変わった。
期待は落胆となり、グラウンドでスタンドからの罵声を浴びることもあった。
それでもそんなファンの声に言い返すのではなく、求めるスタイルに応えようとした。

しかし期待通りだったところもあった。
ファーストの守りだ。
「捕っていればいい」ファーストをそういう人がいる。
そんな簡単なものではない。
ゴロを捕り、すぐに投げる野手の球は微妙に変化することが多い。
それをいとも簡単に、ハーフバウンドさえも容易く彼は処理した。
ただファーストの守りが注目されることは少ない。
やはり打つことでアピールしようと、13年間彼は苦しんだ。

引退を覚悟しながら臨んだ2018年。
見た目にも細くなった身体で、練習試合一発を放った。
今季は違う、そう思わせるような打撃だった。
しかし13年間いじめ続けたことが、年齢が、故障を起こし彼を追い詰めた。

それでもCS争いの中、弾丸ライナーの一発を放ち、チームを奇跡的な逆転に導いた。
自信のあった守りのミスの4日後だった。
次の日には、狙っても打てないような内野安打を放った。
それもチームの逆転のきっかけとなった。
自分の一打をきっかけにベンチで見せた彼の笑顔は、これまでに見たこともないようなものだった。
もしかすると、この時期にはすでに引退を決めていたのかもしれない。

守備の名手として彼はスワローズに足跡を残した。
現役時代の22本塁打は、期待通りではなかったかもしれない。
しかしそのどれもが美しい弾道を描いてスタンドへ飛び込んでいった。

有終の美、数字だけならそうは言えないかもしれない。
ただ彼の一打が大逆転を生んだのは、偶然とは思えない。
成績ではない、選手会長としての人望、彼の仕事を意味のあるものにしようとした他の選手の想いだったように感じる。
2018年14打数4安打1本塁打3打点。
平凡ともいえない数字だ。
しかし中身の濃い打席が多かった。


現役最後の試合は、5番ファーストでのスタメン。
4打席目のセカンドゴロ。
彼が最も輝いた甲子園で、大事に守ったファーストベースへ向かって全力疾走した。

彼なりに全力を尽くしたプロ野球人生。
その終わり方への思いは、彼の胸の中にしかない。
全力疾走の姿で見せた、彼の野球への真摯な向き合い方は、最後の凡打にあった。
思い出せないようなセカンドゴロでの1塁への全力疾走。
華やかな入団と静かな去り際。
それが彼の選んだ引退試合だった。

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~想い出の選手たち~#7 #67 田中浩康

彼のプレーを見ると、なぜか切なさを感じた。
セカンドの名手だった。
だが上手い選手ではあったが、華麗なプレーをするタイプではなかった。
経歴を見れば、エリートコースだ。
ただ彼のプレーは泥臭かった。

チームへの思いを感じる選手だった。
それが消極的なプレーに映ることがあった。
本来はもっと能力の高い選手だったように思える。
瞬間的な打球への反応、打つしかない追い詰められた場面での巧打に、それが垣間見られた。

しかし彼はチームへの献身を選んだ。
たとえ消極的なプレーに見えても、そこには「チームのため」という思いが込められていた。
犠打の数302が、そこに表れている。

神宮ではファンも大切にする選手だった。
こぶし球場からクラブハウスに移動する自転車、ファンの前でスピードを緩め、声をかけやすくし、サインに出来るだけ応えようとする姿を何度も見た。

彼が自分の野球選手としてのスタイルとして選んだのは、貢献よりも献身だった。
それに苦言を呈する人もいた。
ただ彼はそれを貫いた。
チームを愛し、迷惑を掛けることを拒んだ。

用意すると言われた引退試合、CS争うチームへの配慮からやはり彼は拒んだ。
外様だからではない。
それが貫き通した彼の野球道だからなのだろう。

一人の天才の登場で、グラウンドからベンチにポジションが映っても腐らず、泥にまみれて練習し、いつチャンスが来ても出来るように準備を欠かさなかった。
勝負を挑み、敗れ、移籍してもそのスタイルは変わらなかった。

腐ることのない姿。
我を通すよりチームのためのプレースタイル。
そのすべてはファンの記憶の中で愛され続けている。
チームへの献身。
ファンへの感謝。
彼の能力が野球ですべて活かされたとは思えない。
ただ彼の思いは、グラウンドで、神宮で、横浜で表現された。

我慢と悔しさの連続した野球人生だったかもしれない。
それでも彼は自分の貫いたプロ野球選手としてのスタイルには、悔いを残していないだろう。
そんなもんじゃないだろう…という切なさを感じさせるプレー。
チームへの献身を果たすことへの執念に似た姿。
相反する視線を受けながら、それでも愛され続けた不思議さをもつ、堅実で泥臭いプレーヤーだった。

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想い出の選手たち~#20山本哲哉~

野球というのはチームスポーツだ。
ひとりの力では、勝ちことが出来ない。
たとえ好成績を残しても、チームが弱ければ正当な評価を受けられないことがある。
山本哲哉は、そういう意味では運のなかった選手なのかもしれない。

入団1年目、オープン戦で期待に十分応えられそうな内容を見せながら、靭帯損傷によりシーズンを棒に振る。
2011年チームは熾烈な優勝争いの渦中にありながら、戦力としては十分に働けなかった。
しかし3位となった2012年、やっと頭角を表しポジションを得る足掛かりをつかむ。
2013年からは64試合、セットアッパーと抑えを兼務する獅子奮迅の活躍をするが、チームは最下位に沈んだ。
翌年も54試合に登板したが、やはりチームは最下位。

2015年、チームは2年連続最下位から一気にリーグ制覇まで駆け上がったが、山本の肘は悲鳴を上げた。
17試合に登板したが、メスの入った肘、チームへの貢献度は下がっていった。

自分の全盛期とチームの勝敗が合わない。
こういう巡りの悪い投手は珍しくはない。
他のチームのファンからすれば、忘れ去られることが多い存在だ。

しかしファンは、弱い時にチームを支えてくれた選手を忘れることはない。
成績だけを見れば、平凡なリリーフ投手かもしれない。
ただチームが上昇する前には、必ず下降期がある。
その犠牲のもとに、今があるのだ。

ファンは忘れない。
驚くようなストレートはない。
変化球もどうにもならないような球ではない。
しかしそれでも強いチームに、強力な打者に向かって行った山本哲哉のことは忘れない。
記憶という台座の上に、栄光という銅像は立つ。
山本哲哉は台座だった。
巡りの悪さから、鮮烈な印象を与えることは出来なかった。
ただその支えの強さはファンの心の中にある。
台座は想い出としていつまでも強く残るものなのだ。

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~想い出の選手たち~#21松岡健一

「ハンサム」
今の日本では、もはや死語になっているような言葉だ。
ただ松岡を称する時、“イケメン”は当てはまるように思えない。
端正な顔立ちだが、口下手。
実直に仕事をする姿。
最近見られなくなった“昭和の漢”「ハンサム」には似合う。

プロ入りから3年、期待されながら先発としては目が出ず、戸田のエースに留まっていた松岡。
しかし4年目リリーフに転向すると、セットアッパーとして定着。
2010年、“メークミルミル”と呼ばれた年には、自己最高の34ホールドを挙げている。
そして2011年、ドラゴンズとのデッドヒートの中、63試合に登板。
勝ちパターンの投手として君臨した。

ただ私が松岡を思う時、脳裏に浮かぶのはこの時期は当然だが、故障明けの2013年からの姿だ。
負けていようと、どんな展開であろうと松岡はマウンドに立った。
すると、たとえ大差の試合であろうと、松岡の姿がマウンドにあれば、場面は一気に緊張感を増していった。

端正なマスクが鬼の形相に変わる。
松岡の背中にあるスコアボードの点数など関係ない。
ただ打者を抑えるために、渾身のストレート、フォークを投げ続けた。
そして打たれても、抑えても興奮状態のまま、誰も近づけないほどの表情のままベンチへ下がっていった。
敗戦処理のような登坂でも、ベンチに座る松岡は、失点をしていれば悔しさをかみしめた表情をしていた。

しかし今日の引退試合、マウンドの松岡の顔は優しかった。
球のスピード、フォークのキレは変わっていないように見えたが、鬼気迫る表情は消えていた。
燃え尽きたのだろう。
引退を決め、3人の打者と対戦し、ベンチへ戻る松岡の顔には笑みがあった。
もうやりつくした…そんな表情に思えた。

プロである以上、投げる球の威力、キレは重要だ。
ただ松岡にとって、一番大事にしていたものは、心が燃えるような闘争心だったのだろう。
勝ちパターンの投手が敗戦処理で投げることへのプライド。
ファームで若手に混じり汗を流し調整することへの不満。
そんなものが松岡に合ったようには思えない。
打者と向き合い、勝負するための心の火が消えた。
それが松岡の引き金だったのだろう。

これは松岡自身にしかわからない。
悔いがないのとは違う。
力が衰えたてもまだカバーする技術はあっただろう。
しかし松岡にとって最も大事にしたのは、勝負師としての気持ちだった。
それがなくなった時、松岡にはユニフォームを着る理由がなくなった。

松岡は“漢”だった。
口下手で派手なパフォーマンスはしない。
ファンに送るメッセージは常に場面を忘れさせるほどのマウンドで見せる気迫だった。
燃え尽きて去る…”イケメン”ではない。
“漢”としては潔いものに思えた。

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想い出の選手たち~相川亮二~

受け止める男だった。

捕手は投手の球を受けるだけではない。
試合のすべてを背負うもの。
それを教えてくれた選手だった。

「勝ちたい」
その思いを言葉ではなく、プレーで熱く伝えてくる男だった。
チーム初のCS出場、優勝争い…それは彼がいなければ成し遂げられなかったものだ。
そんな実績を持ちながらも、彼への厳しい言葉は続いた。
言い訳をしなかったからだろう。

投手がノックアウトされれば、すべて自分のせいだと言い切った。
打撃での活躍より、投手への気遣い。
お立ち台へ上がっても、チームの勝利。
厳しい言葉は、黙って受け止めてくれる彼への甘えだったのかもしれない

「いい捕手です。競い合ってチームを勝利に導きたい」
才能豊かな若手捕手の台頭にも、チームの為と愚痴をこぼさず、その選手の能力を認めた。
「代われ」
素質の輝きを見た外側の人間が、やはり厳しい言葉を投げかけた。
しかしそれすら受け止めた。
若手捕手への期待感の高まりは、彼が壁となって批判を受け止めたから生まれたものだ。
その壁が取り払われたその捕手は、栄光をつかんだが、その後批判の的になっている。
今、追い抜いた捕手が、チームの敗戦を背負う言葉を口にするのは、受け止められるようになるまで、守ってくれた彼の背中を見てきたからだろう。

チームの敗戦を一身に背負う男だった。
勝利にも満足せず、明日のために
反省をし続ける男だった。
ユニフォームで隠している体には、多くの悔いという名のあざが残っていることだろう。

言い訳をしない男であった。
チームの成績も、批判もヤジも、「言われるのもプロ」と後ろへは逸らず、全てを受け止めてきた。
ただその気力も、もう限界になったのだろう。
彼は、その傷ついた心と体を休ませるために、ユニフォームを脱ぐ。
ホッとした…それが素直な気持ちかもしれない。
しかし悔いは残しているはずだ。
なぜなら彼は、連日反省を繰り返し、明日に生かし続けた捕手なのだから。


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